LIFE LOG(八ヶ岳南麓から風は吹く)

八ヶ岳南麓から風は吹く

大手ゼネコンの研究職を辞めてから23年、山梨県北杜市で農業を営む74歳の発信です/「本題:『持続可能な未来、こう築く』

1.1 ますます混迷の度合いを深めて行く世界————————————その2

1.1 ますます混迷の度合いを深めて行く世界————————————その2

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刈り入れを間近にする我が家の稲田
(この稲田ももちろん無農薬で無化学肥料の完全有機栽培による稲田です)

同じタイトルの「その1」ではアメリカの政治が世界に混乱を引き起こし、さらにその混乱を深めてきた経緯について見て来ました。

「その2」の今回は、アメリカが、経済面でもまた環境面でも、どれほど自分本位に、世界の混迷を深めてきたかということについて、事実に基づき、見てみようと思います。

 

次は、経済面からみた、アメリカの混迷ぶりが世界に及ぼした影響についてである。

マックス・ヴェーバーが「資本主義の精神」と呼ぶ精神がすっかり衰退して見る影もなくなっても、その精神とはまったく形を換えた、人間の「欲」そのものに支えられた資本主義を、世界の中心となって世界を先導して来たのはアメリカだった。

ここに「資本主義の精神」とは、“高度の責任感の伴った、あたかも労働が絶対的な自己目的であるかのように励む心情”とでも言うべきもので、それを天職義務とするような精神のことであるマックス・ヴェーバープロテスタンティズムと資本主義の精神」大塚久雄岩波文庫)。

天職、それは、神の召命と世俗の職業という2つの意味から成り、私たちの世俗の職業そのものが神からの召命だとする考え方を示している。より正確に言えば、世俗そのもののただ中における聖潔な職業生活、これこそが神から各人に使命として与えられた、聖意に叶う大切な営みなのだ、とする考え方のことである。この天職義務こそ、近代初期の資本主義の精神の核心を成していたのである。

しかし、その後、その精神は資本主義経済の発展過程ですっかり影を潜めてしまう。が、それでもまだ、“勤勉に働けば、働いた分のお金が得られる”、“生産性を上げれば、それに見合った報酬が得られる”という考え方は残っており、それが、多少の格差は避けられなかった中でも、資本主義として受け入れられて来た。

しかし、1980年代から1990年代になると、世界、とくに発展途上国の間では、その資本主義はさらに激変して行く。「貧困の撲滅」という呼びかけの下で始まったグローバリゼーションとそのイデオロギーとしてのネオ・リベラリズム新自由主義)が世界的に広がりを見せるのである————この時期、ヨーロッパでは、「鉄のカーテン」が破られ、東西ドイツは統一され、またその直後、ソ連という国家は消滅したのである————。そうした流れを仕組んだのは、既述のように世界銀行IMFと一体となったウオール街だった。彼らの大多数は、ここでも、マニフェスト・デスティニーなる思想の下で、「自由や民主主義の価値を広めるためには武力行使も辞さない」とする考え方や政策を持つネオコンと同盟を結んでいたのではないかと私は推測する。

その彼らの掲げるネオ・リベラリズムとは、保護主義とは正反対で、それぞれの国に、関税の撤廃、金融の自由化、資本の移動の自由化等々を実現させ、その国の政府の規制を最小限にして、それまでの公共・公益部門を民営化させては企業の経済活動を最大限自由にすることを狙ったものである。

 

ではそれを世界中に広めた結果、世界はどうなったか。

国よっては財政危機、金融危機を招き、貧富の格差を極端なまでに拡大させ、生活困窮者を急増させてしまった。

というよりそもそもグローバリゼーションとは、多国籍企業といわれる巨大企業が世界的な事業展開をして市場を独占することが可能となるように、規制を緩和することだった。

だからそのグローバリゼーションは、その結果として、次のような事態や現象を生み出す性質をもともと本質として持っていた(ヘレナ・ノーバーク監督のDVD「幸せの経済学」より)。

その事態・現象とは8つある。

1つは、人を不幸にする。2つ目は、人々の間に不安を生み出す。3つ目は、自然資源を浪費する。4つ目は、気候を激変させる。5つ目は、人々の生活を破綻させる。6つ目は、人々の間に対立を生む。7つ目は、国民の税金を大企業にばら撒くことである。8つ目は、誤った会計の上に成り立つ。

アメリカはかねてより、超強大な軍事力をもって世界を従えようとしてきたのであるが、実はその超強大な軍事力を維持し得ているお金というのは、自国民からのお金ではなく、ほとんどが世界からの借金なのだ。米国債を買わせては手にするという方法で集めた外国からの借金なのだ。

その手法は軍事力保持に限った話ではない。アメリカ国民の大量消費社会の借金を賄っているお金の大部分もそうした手法で集めた外国からの借金だし、後述するウオール街の金融業界が各国の国民からの巨利を貪る「いかさま博打」をしてはグローバル・バブルを引き起こし、その詐欺行為が破綻したときに生じた超巨額の負債を尻拭いするのに充てられたお金もそうした手法で集めた借金なのである。

しかもその借金というお金のほとんどは、それを貸した債権国にとっては、貸したら最後、返してももらえないお金となってしまう性質のものだ。もしアメリカがそれを返したなら、途端にアメリカの経済は崩壊し、同時に世界の経済も崩壊してしまうからだ。

こうしたことから判るように、アメリカが世界を相手に尤もらしい論理を組み立てて構築してはそこに可能な限りの国を巻き込みながら支配して来た世界経済システムとは、その実態は、いわば「他人のフンドシ(借金)で相撲を取る」類いのものだったのだ。しかもそこでは、そうした負い目を負った立場もわきまえずに、つねに自国に最優先的に利益をもたらすこと、すなわち「アメリカ・ファースト」、もっと言えば、政府を金の力で動かす巨大グローバル企業群と、そこに資金を提供する投資家とウオール街の巨大金融企業に最大の利益をもたらすことを第一に考えたものだった。

このように、アメリカは、戦後のどの時代をとっても、その対外姿勢は、軍事援助の仕方についてはもちろん経済支援の仕方についてもすべて「アメリカ ・ファースト」に基づくものだったのだ。決して互恵あるいは「ウイン、ウイン」を考えてのものではない。つねに、それが「アメリカにとっての国益」となるかどうかだけでアメリカの対外姿勢は決まって来たのだ。だからその姿勢も、状況が変わればすべては変わってしまい、昨日まで敵対していた国も、今日からは武器援助するということもしょっちゅうあったし、またその反対もあったのである(孫崎 享「戦後史の正体」創元社)。

アメリカが中心となって戦後すぐに設立した「国際」機関であるIMF世界銀行アメリカの利益を第一とするために設立されたものだし、またそれらのその後の世界各国への経済支援の仕方も、結局のところ、アメリカ政府(財務省)の手足になって、アメリカの利益を第一とする仕方だったのである。GATTO(関税と貿易に関する一般協定)、そしてその後のWTO世界貿易機関)もその例外ではなかった。

次のような一連の動きも、結局はアメリカの利益第一とするためにアメリカ中心に設けられて来たものだ。

遺伝子組み換え技術を特許として認められるように仕組んだこと。本来、自然物なのだから「特許」などというしくみや考え方とは馴染むはずはないのに、である。それは、自国の特定産業が世界の種子を独占できるようにするためだった。

デリバティブ金融派生商品)」などといった、実質的に賭博商品としか言いようのない金融商品を合法化したり、現物取引とは反対に、現物など目の前にないのに、将来の一定期日にその現品の受け渡しや決済を約束するというギャンブルまがいの取引である「先物取引き」を合法化したりしたこともそうだ。実際、原油穀物といった世界の人々の暮らしに直結する物ですら、それらの価格は今もなお「先物取り引き」という手法によって操作されているのである。

それだけではない。巨大多国籍企業群にとっては、今後は巨大利益を生むと目をつけた農業や医療・医薬・農地・土地・水・教育・介護・看護等々のあらゆる分野における、国家間での様々な経済協定(たとえば、TPP、FTAEPA、TiSA、RCEPそして日本政府が事実を隠すために命名した物品協定TAG)にしてもそうだ。それらは、ウオール街や巨大多国籍企業そして巨大金融企業がアメリカ政府と一体になって仕組んだルールだ。それが、アメリカ政府によって各国に加盟を呼びかけられ、各国政府も、アメリカとの交易上、仕方なく加盟せざるを得なくなったものだし、今後もそうした押し付けは続けられてゆくのだろう。

いずれにしても、そうした動きは、エントロピー発生の原理》が教える「人類存続可能条件」とはまったく無関係に進められている。また生物多様性の原理を含む《生命の原理》ともまったく無関係に進められているのである。それは、とりもなおさず、人類がアメリカの先導に従うことで、こぞって破局へと突き進もうとしていることでもある。

日本について見れば、グローバリゼーションという世界的動きの中で、アメリカが日本をネオ・リベラリズム新自由主義)の手法を用いて経済支配を一段と強めた典型例の一つが郵政の民営化であった。

ジョージ・W・ブッシュ政権のアメリカが世界中を騙して起こしたイラク戦争にいち早く「全面協力」を表明したのは既述したように小泉純一郎であったが、その小泉がブッシュに迎合して日本国民を裏切り、竹中平蔵を起用して「構造改革」と称して強行したのがその「郵政民営化」だった。

預金者から預けられている「日本の資産」とも言うべき超巨額の預貯金を日本政府が管理している限りアメリカの自由にはならないから、小泉と竹中は、アメリカに協力して、預金者の預貯金をアメリカの巨大金融企業が合法的にかすめ取ることができるようにするために郵便局を民営化したのである。

その際の小泉と竹中の取った手法は、具体的には、アメリカの国債を買うようにアメリカから巧妙に仕向けさせ、そして “かすめ取らせる”ことだった。

つまり、小泉純一郎竹中平蔵も、吉田茂と同様に、国を売ったのだ。つまり、売国奴なのだ。

アメリカがかすめ取った日本人のそのお金は、既述のごとく、アメリカ政府は、超巨額の軍事費に充てることも出来たし、その軍事費のために生じた超巨額の財政赤字を埋め合わせることにも使えたのである。

実際、小泉政権下の2003年頃から、日本国民のお金は急速にアメリカ国債を買い続けることに使われ、2008年末には日本の一般会計の国家予算よりもはるかに多い1兆ドル(100兆円)のアメリカ国債という売れない紙くずを溜め込んでしまっていたのだ。

ちなみに、2013年10月時点で見ると、日本はアメリカ国債を1兆1000億ドル、中国は1兆3000億ドルをアメリカから買わされて持っている(広瀬隆氏の「資本主義崩壊の首謀者たち」)。

 

このように、アメリカが自国の経済力を成り立たせているお金も、また、ネオコン「自由や民主主義の価値を広めるためには武力行使も辞さない」としては他国に「自由と民主主義」を押し売りする際にちらつかせる軍事力を成り立たせているお金も、そのほとんどは、外国からの借金なのだ。その借金も、これも既述の通り、それを貸した債権国からすれば、貸したら最後、返してももらえないお金とされてしまうお金なのである。

要するにアメリカ政府の言う「アメリカ・ファースト」は、何のことはない、日本を含む協力国を踏みつけにしての「アメリカ・ファースト」なのだ。

こんな状態が、世界的混迷を深めないはずはない。

 

次に環境問題についてである。これまで述べて来たようなアメリカの態度は、地球温暖化・気候変動への取組姿勢という観点からも同様に言える。

今、全世界の人々に、目に見えて脅威を抱かせている地球温暖化そしてそれが主原因で生じているとされる気候変動という問題についても、また目にはなかなか見えにくい生物多様性の消滅という事態に対しても、それを世界中でもっとも加速させているのは間違いなくアメリカなのだ————確かに、今や、温室効果ガスを最も排出しているのは中国となってはいるが————。アメリカ人は、一人当たり、世界中のどこの国の人々よりも多くの化石資源を消費し、どこよりも多くの農薬を多投し、どこよりも多くの食糧を消費し、またどこよりも多くのゴミを出し、どこよりも多くの残飯を出している。その生き方も暮らし方も、人類の存続にとってまさに最大の脅威となっているのだ。

電気の消費量についてみてみても、そのことは次のとおりはっきりする。

アメリカ人一人の電気の消費量は、フランス人なら1.5人分、日本人とイギリス人なら2.2人分、ドイツ人なら2.6人分、南アフリカ人なら5.0人分、中国人なら10.0人分、ナイジェリア人なら61人分に相当するBS世界のドキュメンタリー「地球が壊れる前に〜ディカプリオの黙示録」全篇 2017年12月5日NHKBS1

 

また廃棄物の量についても同様だ。

自然界にとって有害な電気・電子機器の廃棄物は、世界で1年間におよそ5000万トン出ているが、そのうちの950万トンはアメリカが出している。

1989年に採択された「有害な電気・電子機器の廃棄物の手続きによらない輸出入を禁止する条約」であるバーゼル条約(世界190カ国が条約に批准)も、アメリカは未だ批准(あとの一国はハイチ)さえしていないし、しかも米国は廃棄家電のリサイクルさえ行ってはいない。

1992年「リオデジャネイロでの地球サミット」において157カ国の代表が署名した生物多様性条約にも、ブッシュ・シニア大統領だけが署名を拒否したままだ。

また周知のように、地球温暖化を何としてもくい止めようとする世界の人々の悲願として成立した京都議定書「パリ協定」からも脱退している。

エネルギー資源の採掘方法についてみても、温室効果がCO2の20倍とも70倍とも言われるメタンガスを排出させながら土壌生態系を破壊してしまう「水圧破砕法」によるシェール・ガス開発を自国内で積極的に行いながら、その手法によるガス開発をアフリカ、アジア、ヨーロッパにも押し付けている。

その他、火力発電所からの温室効果ガスの量も世界最大、自動車から輩出される温室効果ガスの量も世界最大、北極海の油田開発による海洋汚染の量も世界最大である。さらには、そこへ、石油開発を巡って、イラクやクエートやサウジアラビアへの干渉も続けてもいる。

海岸付近が平地で、低地からなる国や地域では、人々の多くは海面上昇や海岸の浸食、あるいは巨大化したサイクロンによって移住を余儀なくされている。

しかしそうした災害に遭っているのは、その多くが、地球温暖化をもたらすような暮らしとはまったく無縁な暮らしをして来た人々である。と言うより、アメリカの進めて来た既述のネオ・リベラリズムによるグローバリゼーションという世界的経済支配戦略によって貧困な暮らしを強いられて来た人々だ。

その人々の多くは、今、住み慣れた地を離れ、気候難民(かつての米副大統領「ゴア」氏の造語)となって都市へと流入している。南アジアのバングラデシュがその代表例だ。人々は首都ダッカへと大移動を始めている。しかし流入したそこにも仕事はなく、人々は街にあぶれているのである。

 

以上、政治、経済、軍事、環境という面から、自身が混迷に陥り、そしてそれをますます加速させているアメリカによる世界への影響ぶりを見て来た。これらのことからはっきりするのは、もはやアメリカは「世界の救世主」ではないことはもちろん「世界の警察官」でもないということだ。そして、とくにF・ルーズベルト大統領以降築き上げて来た世界の覇権も、今やまったく地に堕ちた。つまり、アメリカ=世界のリーダー」は幻想に終ったのだ。むしろ今のアメリカの存在自体が、世界の主権国とそこの人々にとっては、平和と安定を乱し、「それぞれの国の安全保障を脅かす国」、「帝国主義的・支配的力を振り回す悪の帝国」でしかなく、文字どおりの「ならず者国家」と成り下がった存在、さらには「世界を壊すだけの存在」としか映らなくなっているのである。「偉大な国」どころではない。

もちろん、そのアメリカの姿と存在は、世界人類にとってばかりではなく他生命にとっても同様で、彼らの生存権を最も脅かしている国でもある。

言い換えれば、その姿は、正に、「自由や民主主義の価値を広めるためには武力行使も辞さない」とするネオコンが中心となっている軍産複合体を帝王とする「現代のローマ帝国「狂気の巨人」と言ってもよく、自らが自らを御し得ない国家、自分で自分の姿がまったく見えなくなってしまった国となっているのである。

事実そのアメリカは今、自国内では、貧富の格差は世界一、自由・平等も喪失させ、アメリカン・ドリームをも消滅させ、国民の間ではかつてない分断を生じさせ、肥満や心身の健康障害を蔓延させ、世界最大級の暴風雨をもたらすハリケーンや干ばつや大洪水、森林火災そして竜巻等の巨大自然災害をも頻発化させ、世界で最も顕著な形で、克服困難な矛盾を自ら生み出しながら、しかもそれを深刻化させてしまっているのである。

ところがここで極めて残念なことに、そのアメリカが自ら壊れゆき、また世界の人々のアメリカに対する幻想が壊れて行くとき、同時に世界もまた壊れ、混迷の度合いはいっそう深まって行っていることなのである(K.V.ウオルフレン「アメリカとともに沈み行く自由世界」徳間書店